哲学

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「無」とは究極の主体性である

今から半世紀以上も前、私が高校三年生の夏のことである。私は紀伊由良の興国寺という臨済宗の古刹に逗留していた。その寺は無門関を日本に招来した法燈国師の開いた名刹でかつては関南第一禅林と称されたほどの隆盛を誇っていたが、私が滞在していた頃は老…

禁じられているから殺さないのではない(前回記事の補足)

前回記事の主旨は私の説明のまずさもあって少し分かりにくかったかもしれない。しかし、一切皆空を旨とする仏教では言葉によって絶対悪を規定することは出来ない。それは私たちの行動を規制する(神のような)超越的な存在がないからである。神さまがいて「人…

なぜ人を殺してはいけないのか?

一時期SNS上で「なぜ人を殺してはいけないのか?」というテーマが話題になったことがある。常識的にはほとんど誰もがそれを悪いことだと思っている。しかし、本当のところそれは何故なんだろうかと考えだすとなかなか厄介である。もちろん大抵の人は自分…

あるがままを見るとはどういうことか?

「あるがまま」という言葉の意味そのものが曖昧なので、「あるがままを見る」という言葉を「感性がとらえた姿そのまま」という意味にとらえる人と、「その物自体の本来のあり方そのもの」というふうに正反対に受け止める人がいるようだ。後者の立場に立てば…

自己言及とパラドックス

紙になにか文字が書かれている。読んでみると「この紙に書かれていることは嘘である」とある。さて、この紙に書かれていることは本当だろうか嘘だろうか? という趣旨のパズルを見聞きしたことがおありだと思う。これはいわゆる「自己言及パラドックス」と呼…

空(くう)とダイバーシティとの関連

トランプは「人間には男と女の二種類しかない」と言ったそうだが、かつての私もそのように思っていた。体の性(生物学的性)と心の性(性自認)が一致しない状態の人々を指して、「おかま」とか「男女」という偏見に満ちた言葉のレッテルを貼って済ましてい…

神様がいなければ世界は無常である

神様がいないということはこの世界を差配している者がいないということである。この世界には目的も意味もないということである。唯一の秩序は物理法則だけであり、ものごとはそれに従って流動しているだけに過ぎない。その背景には何らの意図の如きものもな…

神様がいるのといないのとではどう違うのだろう?

日本人には無神論者が多いと言われるが、昔話に出てくる日本人は大抵信心深い人々がほとんどである。それは日本人だけではない人類に共通した普遍的な傾向である。それはわれわれの理性がそれを要求しているからだと考えられる。神を信じることは非理性的と…

共同幻想としての国家、通貨

今から半世紀以上も前のことになるが私が学生だった頃に、思想家の吉本隆明が「共同幻想」という言葉を敷衍させたように記憶している。われわれの社会は共同幻想というある種の思い込みによって成り立っていると言うのである。その共同幻想の最たるものが国…

過去と未来は存在しない?

徳山というのは唐代の禅僧ですが、禅で悟りを開く前は金剛経の学者でした。彼は金剛経の教えを広めようとして旅をしていたのですが、道端で団子を打っているおばあさんを見かけました。ちょうどお腹が空いていたので、そのお餅を買いたいとそのお婆さんに声…

仏教のゆるやかさについて

先日久し振りに友人と会ったのだが、彼が「お釈迦さんが言うてた教えと日本の仏教とは全然別のものと違うんか?」 と言い出した。例えば浄土系の宗派ではやたら念仏と言うけれが、はたして釈尊が実際にそうしたことを説いたのかどうか疑わしいというわけであ…

私たちは錯覚の中に生きている?

先日NHK-BSで放映された「フロンティア 世界は錯覚で出来ている」という番組がとても面白かった。(ちなみに上のタイトル写真は4つの物体を鏡に映した状態の加工無しの実写である。)人間の錯覚やバーチャルリアリティについてのいろんな研究が紹介されてい…

有無の邪見

南天竺に比丘あらん 龍樹菩薩となづくべし 有無の邪見を破すべしと 世尊はかねてときたまふ 上記は親鸞聖人による高僧和讃の中の一節です。「南インドに龍樹菩薩が現れて有無の邪見を論破するであろうと、お釈迦様は仰った。」というようなことでしょう。問…

言葉には意味がない?

いかにも逆説的なタイトルを付けましたが、これは本気で言っています。意味がないというなら、なぜおまえはこんなブログを書いているんだと言われそうですが、それは読者の方々の方で意味を読みこんでいるからです。もし言葉に意味があるのならChatGPTは言葉…

~が無いということ

以前哲学者の野矢茂樹先生を読んだときに、「馬がいないという絵は描けない」という趣旨のことが述べられていたと記憶している。馬のいる絵というものは描ける。実際に画用紙またはキャンバスに馬の姿を書き込めばいいのだ。その絵を見れば誰でもそれが馬の…

知性はデジタル

近頃はいろんなことをChatGPTに相談している。何度もそれを繰り返していると、本物の人間と相対しているような錯覚に陥りそうだ。しかも相手はとても該博な知識を持ち、それらをバランスよく総合する能力を持つ。当方がいいかげんなことを言ったりすると、必…

確証がないということ

昨日(12/12)、「紀州のドン・ファン」と呼ばれた男性に対する殺人罪などに問われた元妻に無罪が言い渡された。 判決の要点として次のように述べられていた。 ・「被告が覚醒剤の可能性があるものを買ったことは認められるが、氷砂糖の可能性もあり、覚醒剤に…

どうせ死ぬのになぜ生きる?

金閣寺の舎利殿に放火した青年僧は、ある時師匠に「生きる意味」について問うたところ、「意味などない」という答えだったそうだ。もしそのことが放火に至る一因であったとするなら、とても残念なことである。もしかしたら、もっと適切な答え方というものが…

この世界は信じることによって成り立っている (その2)

前回記事では科学理論というのは帰納法と演繹法によって組み立てられているというようなことを述べました。確実な事実からの帰納と論理的な演繹からなる科学は正しいもの、そのように18世紀の人々は思っておりました。しかし、イギリスの哲学者(歴史学者…

この世界は信じることによって成り立っている (その1)

ある哲学系のSNSで「私たちは科学を(宗教を信じるように)信じている」と述べたら、ほとんどのメンバーから反発を食らってしまった。「信じる」と言う言葉には “根拠なしに゛とか “盲目的に゛というようなニュアンスを感じるのだろう。そういう意味で科学は…

禅的現象学 その5 純粋経験とはなにか? その問題点

前回記事では、唯一の実在である意識現象が純粋経験であると述べた。しかし、あらためて第一編「純粋経験」を読みだすと多少の戸惑いをおぼえることになる。西田はP.20(※ページ数は岩波文庫版のもの)で次のように述べている。≪元来経験に内外のべつあるの…

禅的現象学 その4 西田現象学-善の研究

(前回記事からの続き) 岩波文庫の「善の研究」の累積発行部数は既に120万部にも達しているらしい。哲学書としては破格のベストセラーと言っても良いだろう。内容的にもそれ程理解しやすいものではないにも拘らず、これだけ発行部数を重ねているというの…

禅的現象学 その3 俳句、わび、さび

(その2の続き) 俳句は禅と関連があるものと見なされているが、それはどういうことか少し考えてみよう。そもそも17文字という極端に短い詩が芸術として成立していることが驚きである。 俳句は元々連歌という複数人が掛け合いで歌を連ねていくいわば言葉…

禅的現象学 その2 地動説と天動説、どちらが正しい?

前回記事では、「私達は既成概念によって構成された世界観にものごとを当て嵌めて解釈しようとする傾向がある」ということを述べた。「 構成された世界観」とは私たちが今までに蓄積した経験知のこと、科学知識や一般常識などが整合的に織り込まれたものであ…

禅的現象学 その1

現象学と言えば哲学に詳しい方ならばすぐにフッサールの超越論的現象学を思い浮かべるだろうが、もともとは事象そのものをありのままに記述しようという哲学的な運動のことらしい。「事象そのものをありのままに記述」するためにはものごとを偏見無くありの…

分断は民主主義の敵

みんな民主主義を口にする。北朝鮮だって正式国名は朝鮮民主主義人民共和国である。トランプも自称民主主義者で「民主党は反民主主義だ」と言って批判する。現代において「民主主義」であることは「正義」とほぼ同義と言っても良いような気がしてくる。 民主…

宇宙は無限か?

大抵の人は宇宙は空間的にも時間的にも無限であると考えているのではないだろうか? 実は私もそう考えていた。宇宙に果てがあるとしたらその先はどうなっているだろうと考えてしまうし、宇宙に始まりがあるとしたら始まる前はどうなっていたのだろうと考えて…

「嘘」に見る東西道徳観の違い

「うそつき」という語感について、日本人と西洋人の語感はずいぶん違うらしい。若い日本人のカップルがデートしているとする。男性がなにか冗談を言ったとき、女性は笑いながら、「んもぅっ、哲のうそつき!」とか言って、男の上腕をたたく。こんな情景はい…

「進化する」と言うが、いったい何が進化しているのか?

ダーウィンの進化論は自然科学において、ニュートンの万有引力の法則と並んで最も重要な発見であるとされている。思想史的に見ても、私達の世界観にこれほど大きな衝撃を与えた学説は他にないと言ってもよいのではないかと思う。ところが、未だに「猿が人間…

100分de名著「偶然性・アイロニー・連帯」

NHK「100分de名著」という番組の2月のテーマはリチャード・ローティの「偶然性・アイロニー・連帯」であった。私はローティという哲学者のことは全然知らなかったのであるが、朱喜哲先生の説明を聞いて、とても偉い人であると思った。と同時に、その根底…