ウィトゲンシュタインの講義 数学の基礎編

(第一講より抜粋)------------------------------------------------- 
ある種の魅力をもった誤解が存在する。 

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「図1において、直線は円と交差しているのだが、それは虚点においてである」。この主張はある種の魅力をもっているのだが、それはいまや生徒に対してだけであり、数学を仕事としているような人に対してはそうではない。 
「交差する」は図2のように描かれるような通常の意味をもつ。しかし我々が、直線は円と−− たとえ交差していないときであっても−− 常に交差する、という証明を行うとする。そこでは我々は、「交差する」という言葉を以前には用いられていなかった仕方で使用している。我々は両者を「交差する」と呼ぶ。−− そして、「実点だけでなく、虚点でも交差する」という項目をつけ足す。こうした項目は類似性を強調するものである。即ち、これは二つの表現を同一視することの一例なのである。 
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私達は中学校で数学を習う場合に、二次方程式 X∧2 +1=0 の根は存在しない、というふうに教えられる。が、高校では複素数を学び、X=±i であると教えられる。この時、なにか新たな真理に一歩近づいたような気がしたのではないだろうか。ウィトゲンシュタインは「二次方程式は常に根をもつ」という言い方に別段抵抗しない。そのこと自体はさほど重要ではないという。ただし、数学が形式的な学問であり、その形式をわきまえた上での表現であるならばである。 
二次方程式 f(x)=0が解をもつということと、y=f(x) のグラフがy軸と交差するということは同値である。 y=X∧2 +1 のグラフはx軸とy軸からなる2次元平面の中では絶対に交わることがない。複素数を、x=x1+i・x2,y=y1+i・y2として考えれば、x1,x2,y1,y2はそれぞれ独立である。つまり、複素数を導入して y=f(x) のグラフを考えるということは、x1,x2,y1,y2という4本の軸の直交座標からなる四次元空間における図形を扱っていることになるのである。 
つまり、我々は「二次方程式は常に根をもつ」という『真理』を新たに発見したのではないということをわきまえておかなくてはならない。新しい形式を導入して、新しい計算方法を発明したのである。